きしめんは「名古屋めし」を代表する存在でありながら、地元民にとっては食事と間食の境界線にあるような独特の位置づけです。「新幹線のホームで食べるのが一番うまい」と称されるように、手軽かつスピーディーに小腹を満たすホットスナック的な側面が強く、単体では一食のメインとして少し物足りなさを残します。しかし、その物足りなさこそが「きしめん定食」という完成形を生み出しました。
名古屋の日常において、きしめんはメイン料理ではありません。ご飯ものや丼に添える「極上の汁物」です。町の麺類食堂で定食になってはじめて、ランチとしての満足が完成します。
昔ながらのきしめん出汁はムロアジをベースにした強い旨味があり、濃厚なたまり醤油の返しを合わせせると、名古屋クリムゾンとでも呼びたい濃い色。ガツンと効いた出汁と醤油のコクは、白飯を引き立てる最高の相棒です。間食としての「きしめん」に対し、地元の生活に根差したランチとしての「きしめん定食」。同じきしめんを味わうにしても、本当の名古屋めしは、「きしめん定食」のほうにある。アタクシはそう思っています。
このページでは”きしめん”ではなく、”きしめん定食”をまとめていきます。名古屋の人々の日常、本物の名古屋めしの記録です。
麺がどうとかこうとか、汁がどうとかこうとかじゃなく、「旨くて、安くて、腹が張れば最高だがね!」って感じなのです。

このページは、アタクシが実際に食べに行ったきしめん定食またはきしめんセットを記していきます。
きしめん定食とは何か
明確な定義はありませんが、町の麺類食堂では次のような構成が一般的です。
- きしめん(温 or 冷)+ミニ丼(かつ丼・親子丼・天丼など)、きしめんセットと表記されることが多い。
- あるいは きしめん+ご飯+小鉢+漬物、きしめん定食として表記される。
- 価格はおおむね1,000〜1,200円
つゆは店によって赤つゆ(たまり醤油)と白だしに分かれます。同じきしめんでも、これでまったく違う顔になります。
そしてきしめん定食はたいてい最安値!これも質実剛健。デフレに強い愛知県民の特徴をよく表しているんじゃないかなと思う次第であります。
農林水産省の「うちの郷土料理」によると、きしめんは厚さ1mm・幅7〜8mmほどの平たいうどんで、昔ながらの製法ではムロアジとたまりでつゆを仕立てるとのこと。平たい麺は味を薄く感じさせるため、濃いつゆで対応したのだそうです(出典:農林水産省 うちの郷土料理「きしめん」/愛知県麺類食堂生活衛生同業組合)。
町の麺類食堂で食べるきしめん定食
いちばん「日常」、「本物の名古屋めし」に近いのがこの系統です。
きしめん定食の基本形はきしめん+白飯+香の物。店ごとの違いは、そこに付く副菜と小鉢の豪華さに出ます。表には、その基本形に付くものだけを書きました。
そして香の物が2種類付く店には ◎ を付けています。漬物を2種類出すのは、アタクシは老舗の証だと思っています。
値段と場所は変わるものなので、各店のリンク先でご確認ください。
| 店 | エリア | 基本形に付くもの | ひとこと |
|---|---|---|---|
| 角千本店きしめん茶屋 ◎ 2025年1月・2022年9月 | 春日井市 | 唐揚げ、揚出し豆腐、小鉢 | 名古屋に多数ある「角千」の一角 |
| 香流庵 ◎ | 名古屋市名東区 | チキンウイング、小鉢、ザーサイ | 住宅地にひっそりある手打ち |
| おかだうどん ◎ | 尾張旭市 | 日替わりのおかずプレート、フルーツ | お母さんが大鍋で麺を茹でてくれる |
| めん処むつみ◎ 2018年の記録 | 春日井市 | 煮物の盛合せ、天かす別皿 | 汁物としてのきしめんの筆頭 |
| 新角屋 ◎ | 名古屋市東区 | フルーツ | 漬物2種類に心惹かれる。頼めば松月も作ってくれる |
| 三芳屋 ◎ | 名古屋市東区 | いわしフライ、きしめんのサラダ | 徳川園の近く。お新香2種の豪勢な食事 |
| きしめん竹亭 | 尾張旭市 | 唐揚げ、コロッケ、小鉢、トッピング各種 | きしめん定食が最安値ではない |
| みのや | 豊山町 | 小鉢2皿、取り放題の昆布の佃煮&梅干 | 小鉢2皿と香の物が付く、完璧な形 |
| 三浦屋 | 名古屋市東区 | 日替小鉢(カレーコロッケ、冷奴) | 「次はきしめん定食を」と書いて2年、初心貫徹 |
| すえひろ◎ | 春日井市 | 筑前煮 | お父さんはここでは「きしめん定食一本鎗」 |
| いせ徳 | 清須市 | 小鉢2皿 | 100年続く老舗。小鉢をつまみに一杯やれる |
| つばめ屋 | 瀬戸市 | 日替わりのおかずプレート、小鉢 | 初めての店ではきしめん定食、と決めている |
| めん処大幸 | 名古屋市東区 | 小鉢、漬物 | ランチのきしめんは素きしめん |
| 四代目一八 正木本店 | 名古屋市中区 | 串カツ | 天南丼の店でもある |
| 一富士 | 名古屋市守山区 | コロッケ | 名古屋場所を偲びながらのきしめん定食 |
| 手打ちうどん 八重丸 | 春日井市 | 魚フライ、ヒレカツ、コロッケから選択 | 魚フライは鯵鱚鰯から選択 |
| ごはん屋ちから(休業中) | 春日井市 | 幕の内弁当の汁物がきしめん | ころは提灯弁当。 |
| 朝日屋 | 名古屋市東区 | 小鉢2皿 | 天南丼の岩正の隣。きしめんが旨い。 |
| ひらのや 山の神店 | 名古屋市名東区 | 海老天2本の天ぷら盛合せ、小鉢 | お盆に開けていてくれる、ありがたい一軒 |
| えびすやグループ | 名古屋市中区ほか | 暖簾分け店が多く、多種多様 | 名古屋カレーうどんの系譜。 |
| 葉栗屋春日井店 2023年3月のきしめん定食 | 春日井市 | 天ぷら、煮物、香の物 | 我が家の「困った時は葉栗屋」。日祝も通し営業で、汁は名古屋クリムゾン |
家で「名古屋クリムゾン」を作ってみる
ここまで20軒並べておいて申し訳ないのですが、愛知の外に住んでいる方には、どれも食べに行けません。近所に麺類食堂がないという県内の方もいるでしょう。そういう方のために書いておくと、この記事の冒頭で書いたムロアジの出汁に、たまり醤油の返しを合わせた漆黒のつゆは、家で作れます。特別な道具は要りません。要るのは材料3つです。
もっとも、家で作ったつゆがどれだけうまくできても、小鉢と漬物とご飯が付いて1,000円という、あの一膳にはなりません。きしめん定食は、町の麺類食堂でしか完成しないのです。
もう食べられないきしめん定食
町の麺類食堂は、こうして静かに消えていきます。アタクシが食べたあとに閉じた2軒も、記録として残しておきます。
| 店 | エリア | 基本形に付くもの | ひとこと |
|---|---|---|---|
| 御食事処 宮根 2018年廃業 | 名古屋市名東区 | 天ぷら盛合せ、小鉢 | 小料理屋のような小鉢。本職の仕事が分かる一皿でした |
| 山花屋 2019年2月廃業 | 名古屋市名東区 | 日替わりのおかず | 「体悪くしちゃってね。うどんも打てーせーへん」亭主に謝られてしまった切ない思い出があります。 |
※価格・メニューは訪問当時のものです。お出かけ前に各店の最新情報をご確認ください。
▶ 名古屋の麺類食堂「一八」の暖簾分けと、訪ねた店の記録は一八のれん会の記録にまとめています。
▶ 名古屋の麺類食堂の中華そばは、名古屋の中華そばまとめに一覧でまとめています。


